言葉とともに

日本に生まれ、日本語を話す父母に育てられ、日本社会という環境に生きていれば、大方の人は日本語を読み、書き、会話に不便を感じることはありません。喜怒哀楽は自然に口をついて出る言葉によって表現され、誰かに伝えられます。相手の意思、感情も言葉に載せて伝えられ、理解されます。これ以上幸せなことはありますまい。

しかし残念なことにこの言語的幸せは一生、欠けることなく続き得るわけではありません。一度聞いた言葉、目にした言葉のすべてが脳細胞にとどまり続けるほど人の記憶力は完全ではないし、強力でもありません。情報メディアとしての言葉数のほうも、だれもが実感するとおり、星の数ほど、浜のまさごほど存在します。

自分の趣旨、概念、想いをぴったりの言葉で表わそうにもなかなかうまくいかない、もどかしいというつまずきは誰もが経験しているはずです。慣用句だって、ことわざだって、和歌や俳句の断片だって、誰かの名言だって、日本語世界を豊かに彩る一方、ことあるごとに私たちの頭を悩ませます。

最適な言葉、表現を求めながら、今イチの類似表現、代用的言い回しで満足せざるを得ない場合もあるでしょうが、思わず快哉を叫びたくなるような神ワザ的フレーズに遭遇、自分に大満足を感じる場合もありましょう。言葉そのもの、あるいは言葉による表現、創作にはそうした奥深さがあります。

言葉の世界は宇宙の広がりを持ち、汲めども尽きない興味と喜びをもたらしてくれます。それを先人たちは言霊(ことだま)と呼び、言葉には力があると説いてきました。

語句数68万語の本書『類語玉手箱』は、そうした言葉のパワー、エネルギーに支えられ、編まれています。多くの方々と言語の妙を分かち合い、日本語の魅力、類語の面白さを共有できれば幸甚です。

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